低温工学・超電導学会 冷凍部会-Institute of Cryogenic Engineering-
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部会長挨拶
冷凍部会長あいさつ

冷凍部会部会長 柁川一弘(山口東京理科大学)
学会設立50周年記念企画として低温工学誌第51巻4号に掲載された当時の冷凍部会長である淵野修一郎氏(前産総研)の学会活動報告には、「冷凍部会は1972年11月9日、第10回低温工学研究発表会と併催の形で、第1回冷凍部会が開催されたことに端を発します。」と記載されています。従って、私が冷凍部会長に就任した2022年は、冷凍部会創設50周年となる節目の年です。このような歴史と伝統のある冷凍部会の代表を今回務めさせていただくことに身が引き締まるとともに、誠心誠意職務を全うする所存です。
2015年開催の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定に基づいて、全ての国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年毎に提出・更新する義務があります。そこで、我が国では、2050年のカーボンニュートラルを実現するために、2030年度の温室効果ガス排出を2013年度比で46%削減することを目指すとともに、さらに50%の高みに向けて挑戦し続けることを、2021年に地球温暖化対策推進本部で決定しています。カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量から植林・森林管理などによる吸収量を差し引いて合計を実質的にゼロとすることで、脱炭素社会の実現を目指すものです。
また、パリ協定における世界共通の長期目標として、世界的な平均気温上昇を工業化以前(1850~1900年)に比べて2℃より十分に下回る程度に抑えるとともに、1.5℃に近づくように努力すること(2℃目標)が合意されています。一方、2020年時点における世界の平均気温は既に、工業化以前と比べ約1.1℃上昇したことも報告されています。何の対策もせずにこのままの状況が続けば、更なる気温上昇も予測されています。そこで、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(AR6)の第1作業部会報告書「自然科学的根拠」では、温室効果ガスの排出が2050年頃に正味ゼロとなるシナリオも提示されています。2021年グラスゴー開催のCOP26において世界的な平均気温上昇を1.5℃にとどめる努力を追求すること(1.5℃目標)に世界の国・地域が合意しましたが、2022年11月にエジプトで開催されたCOP27の合意では1.5℃目標の文言が最終的に削除されたとも報道されています。
2030年目標や2050年目標の実現に向けて、2021年に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に基づいて、学会全体や冷凍部会の範疇を幅広く捉えて関連しそうな事項を以下で俯瞰します。本戦略の基本的な考え方は、「地球温暖化対策は経済成長の制約ではなく、経済社会を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となるもの」です。
まず、温室効果ガスの排出削減について、長期的なビジョンと対策・施策の方向性やイノベーションを創出すべき技術課題を、各分野別に見ていきます。エネルギー部門については、我が国の温室効果ガス排出量の8割以上を占めており、その大幅な削減のためには脱炭素電源の導入が不可欠です。脱炭素電源として、太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーによる発電、二酸化炭素回収・貯留(CCS)を併用した火力発電、および原子力発電があります。一方、需要側の対策としては、徹底したエネルギー消費効率の向上による省エネルギーや電化率の向上が挙げられます。また、燃焼時に二酸化炭素を排出しない水素・アンモニアを燃料とした発電も注目されています。次に、産業部門については、我が国の特徴の1つとして、高温の熱利用や工業プロセスの化学反応に伴う大量の二酸化炭素の排出が挙げられます。この熱需要や製造プロセスを脱炭素化するために、電化技術の導入や熱エネルギーを供給するガスの代替、新たな生産プロセスの確立などを模索する必要があります。また、運輸部門については、二酸化炭素排出量の86%(全体では16%)を自動車が占めています。国内貨物輸送の約8割がトラック輸送であり、その二酸化炭素排出量は全体の7%です。鉄道・船舶・航空の各々が、運輸部門の二酸化炭素排出量の4〜5%を占めています。これらの脱炭素化に向けて、電化率の増加や水素・アンモニアなどの代替燃料への転換が必要となります。さらに、地域・くらし部門については、各地域がその特色を活かした自立・分散型社会を形成し、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなどの再生可能エネルギーの導入や蓄電技術も含めた分散型グリッドを構築する必要があります。一方、温室効果ガスの吸収施策については、大気中からの二酸化炭素直接回収(DAC)が最近注目されていますが、現状ではエネルギー効率が低く、回収コストの低減が課題となっています。
冷凍部会としても、カーボンニュートラルの実現に貢献できる活動に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

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